2017年3月1日に、第35回サイバーワールド(CW)研究会が大阪イノベーションハブで開催されました。この研究会で、飯尾ゼミの菅野くんが「動画投稿サイトに寄せられるコメントの分析」という発表を行いました。本発表は、彼が卒業研究として実施し卒業論文にまとめた内容を報告したものです。
例年、3月のCW研究会は、卒論や修論の内容を発表する学生による発表が中心です。今年は、成蹊大学から2件、北陸先端大、名工大、中大からそれぞれ1件の一般講演と、奈良先端大の金谷先生、荒川先生による2件の招待講演がありました。
一般講演(1)
まず、最初の発表は北陸先端大の王さんによる「訪日旅行者向けバス乗り間違え回避・対処支援システム」です。旅行で街を探索したいとき、現地のバスが利用できると活動範囲が広がるのは確かですが、知らない土地を訪れた旅行者にとってローカルバスの利用はなかなか難しい課題です。そのため、様々な情報を提示して現地のバスを利用しやすくするというロケーションベースサービスのバス利用ガイドアプリを作成したという報告でした。言語の壁を乗り越えて、いかにコミュニケーションを支援するかという側面もあり、様々なガイド機能を実装したということでした。
北陸先端大に通う中国人留学生10名を対象に、実際に使わせて評価したとのこと。「間違えた路線に『わざと』乗せて、トラブルを回避することができたか」というテストを実施したという点が画期的かなと感じました。ローカルバス利用に対するICT支援は、テーマとしては面白く、飯尾ゼミでも課題として考えている学生がいます。この領域は、ICT利活用のひとつのフロンティアなのかもしれません。
続いて、飯尾ゼミの4年生、菅野くんによる発表が行われました。ニコニコ動画のコメントについては多くの研究例がある一方で、同じ動画投稿サイトであるYouTubeのコメントに関してはあまり研究が進められていないのではないかという疑問から、YouTubeのコメントを対象として分析を進めてみたという研究です。
本研究の結論としては、ニコ動とYouTubeではコメントの性質が違うということで、ニコ動のコメントは単純な脊髄反射的意思表示であるのに対し、YouTubeではコメント欄を利用したコミュニケーション的性格を持つという性質を端緒に示すことができました。本研究のポイントは、そのコメントの内容をテキストマイニングを用いて示したという点にあります。
招待講演
招待講演の1件めは、奈良先端大の金谷教授による「世界最大規模の植物代謝産物データベース“KNApSAcK”の構築とその展開」と題したご講演です。たんなる巨大データベースだとGoogleなどに太刀打ちできないが、植物代謝産物データベースという特定分野にフォーカスすれば十分勝負になるというお話。バイオインフォマティクスに関してはあまり詳しくない私ですが、やさしく解説してくださったので、なんとなく雰囲気はつかめました。
バイオインフォマティクスだけでなく医食同源から料理の話まで手を広げているとか、学生を集めるためにアフリカまで飛んでいくとか、夫婦喧嘩した後の大根おろしはなぜ辛いのかとか、科研費申請のシーズンになるとデータベースのアクセス頻度が下がるので日本中の研究者が脳死状態になっていることがわかる(!)とか、いろいろと脱線された話も印象的だったりして、たいへん面白いご講演でした。
2件めは、「IoTが拓くスマート社会」というタイトルで、同じく奈良先端大の荒川准教授がご講演くださいました。スマートホーム、スマートライフ、スマートシティというテーマで、自宅での暮らしや毎日の暮らし、我々が住む社会を対象としてセンシング、データ分析、そしてその応用という研究を進めているとのことです。
「IoTと言いつつモノを作って終わりじゃダメ、そんなの単なるIT日曜大工(遊び)、そうじゃなくて、データ処理をうまく組合せてサービスとして魅力あるものを作らないといけないよ」というメッセージが印象的でした。私も、まったくもって仰るとおりと感心しました。行動データを逐一センシングされるというスマートハウス、学生が武者修行に来て生活していったり、企業からも宿泊体験してみたりという話が紹介されました。プライバシーには配慮されるということだし、興味深いのですが、うーん、泊まってみたいような、みたくないような…
一般講演(2)
招待講演の後はふたたび一般講演です。
午後の一般講演、最初は、名工大の梶岡さんによる「BLEビーコンによる移動情報計測と頻出移動パターンの抽出」という発表です。名工大の学内1,600箇所に設置したBLEビーコンから発せられた電波をスマートフォン端末で受信することによって、キャンパス内の移動データを取得、そのデータを分析したという研究の紹介でした。BLEビーコンは拳大の大きさで、リチウム電池使用により5年間連続移動できるというものだそうです。
実験は、学生14名を被験者として、1週間ほどデータを取ったということで、かなりの数のデータを分析できたとのこと。取得したデータのなかから、よく出てくるような移動パターンを抽出してみたという、その分析結果が報告されました。
続いて、成蹊大の乾さんによる「モノのインターネットのためのアプリケーションフレームワーク」です。IoTのアプリケーションは時間の精度が重要ということで、Linuxカーネルを修正してスリープ時間の精度を改善、それを踏まえたアプリケーションのフレームワークの提案です。
乾さん、そういえばちょうど1年前に成蹊大で開催された第32回サイバーワールド研究会で、「IoT向けLinuxスケジューラの調査」という発表をしていました。今日の発表は、その研究を発展させたものということですね。着々と、研究が進んでいるようでなによりです。
(前回、第32回CW研究会の様子はこちら → http://sil.tamacc.chuo-u.ac.jp/wp/archives/1194)
本日最後の発表は、同じく成蹊大の原田さんによる「移動販売スケジューリング・ウェブシステム」です。移動販売車で様々な販売を行う際には移動時間と販売時間を考慮しなければならないので、そのための最適化を考えたという研究の報告です。2020年の東京オリンピックを想定して、8km圏内に移動範囲を想定してシミュレーションしたところ、メインスタジアムで販売するのが最もよいというあまり面白くない結果が出たため、いろいろと条件を変えて、定式化したそうです。売上を長さとした最長経路問題とみなして、売上の最大化を目指したとのこと。面白い着眼点だと感じました。