2016年3月9日に吉祥寺の成蹊大学で開催された第32回サイバーワールド(CW)研究会において、飯尾ゼミの九津見くんが「スマホVRにおけるコメント機能の提案」というタイトルで研究成果を発表しました。毎年、年度末に開催されるCW研では、卒論や修論の成果を発表する場として学生の発表が目立ちます。今年は、基調講演として成蹊大学の世木先生からご講演があったほか、茨城大学から3名、成蹊大学、北陸先端科学技術大学院大学、中央大学からそれぞれ1名ずつの学生発表がありました。
基調講演
基調講演の世木先生は、1年前にNHKの放送技術研究所から成蹊大学に移られたかたで、放送技研では音声合成の研究をなさっていたとのこと。今回の基調講演では、技研時代に研究されていた音声合成に関するお話をご提供くださいました。最近では音声合成のクオリティもかなり向上しましたが、放送品質にかなうものはなかなか実現できていないそうです。「人間だってよどみなく話せるひとはそんなにいないし、もう十分にうまく話せてるんじゃん?」などと考えてしまうのは素人の浅はかさでしょうか(チューリングテストのような評価が必要なのかもしれません。実際にデモ音声を聞いてみましたが、人間が話しているみたいでしたよ)。放送品質にするためには、人名や地名の発音やアクセントは正しくなくてはならないらしい。まあ、人名はイイカゲンに読み上げると失礼にあたりますね。
ラジオの株式市況放送番組は、世木先生のグループで研究して実用化された合成音声で自動化されているそうです。気になるひとは、NHKラジオ第2放送で17時から45分間株式市況を延々読み上げる番組を聞いてみよう!
NHK技研R&Dの論文「株式市況音声合成システムの開発」もどうぞ。
一般講演(1)
続いて、学生発表のセッションです。前半は、井伊谷くんによる「コミュニティバス向けの簡便なリアルタイム位置情報システム」、伊藤くんによる「BYOD授業のための画面と音声のリアルタイム配信Webベースシステムの開発」、藤井くんによる「Back Propagationを用いたTwitterフィルタリングの実験」と、茨城大学の3名による発表が行われました。会場からは厳しめの質問やコメントも飛んでいましたが、今後の研究に活かしてほしいところ。
コミュニティバス向けのシステムは、Android端末を用い、コミュニティバス向けの停留所データを収集してオープンデータとして公開するためのシステムとのこと。一般的な傾向として、なんでもかんでもデータを公開すればオープンデータだと胸をはる傾向があるようですが、オープンデータとして公開すること自体を目的にして終わらせるのではなく、役に立つデータとして整備していくことを考えてみるとよいですね。
画面と音声の配信システムは、類似のシステムが既にあるというコメントがありましたが、学生ひとりで作り上げた点は評価できるでしょう。「講義の配信システムという特徴を活かして、より使いやすいシステムにしていくことを考えてみましょう」というアドバイスがありました。
WebSocketとWebRTCをうまく使ったP2Pのシステムは、上手に構築できればたいへん面白いシステムを作ることができそうです。今日提案があったシステムも、「途中のノードがコケちゃったらどうするの?」とか「アップロードはどうするの?」などのツッコミが飛んでいましたが、それらをすべて潰していけば、実用的で、面白そうなシステムを普及させることができそうです。大学院に進学するとのことなので、今日いろいろと突っ込まれたコメントや指摘を振り返って、より素晴らしいシステムを作り上げてほしいものです。
「Back Propagationを用いたTwitterフィルタリングの実験」では、Twitterのデータを対象としたフィルタリング実験の結果が報告されました。表示したいつぶやきと表示したくないつぶやきを、ディープ・ラーニングの手法を用いて分離させ、フィルタリングに活用しようというものです。キーワードの選定に若干の不具合があったとの議論がありました。こちらも、よりいっそう効果が確認できるパラメータ設定などが期待されます。
一般講演(2)
後半は、北陸先端科学技術大学院大学の山中くんによる「モラル向上を促す家庭用スマートゴミ箱の提案」からスタートです。前半は15分のショートセッションでしたが、後半はひとり25分、少し長めのセッションです。
スマートゴミ箱は、家庭における排気量削減を狙いとしたシステムです。予備実験として、廃棄物の重量を提示することで廃棄に意識させることができるようになったそうです。その結果を活用して、モラルの向上を促すようなサイネージとセンサ付きのスマートゴミ箱を作ったという報告がありました。家庭のゴミ箱というたいへん身近なデバイスを電子化してサイバー化する、まさにサイバーワールド研究会らしい発表でした。
続いて、成蹊大学の乾くんによる「IoT向けLinuxスケジューラの調査」というタイトルで、Raspberry PiをIoT機器として使うときに、スリープ関数の時間が安定しない問題を取り上げて、スケジューラを改良することによって精度の向上を狙ったという発表がありました。
他の発表といささか毛色の違う発表だったのですが、サイバーワールドを支えるインフラに着目した、このような研究にはもっと陽が当てられてもよいのではないでしょうか。
最後の発表は、中央大学、飯尾ゼミの九津見くんです。「スマホVRにおけるコメント投稿機能の提案」というタイトルで、ハコスコ(スマートフォンを利用したVRシステム)を活用した動画視聴システムの提案を行いました。デモ、うまくコメントが流れなかったのは惜しかったね(「いきなりのデモは失敗する」… デモンストレーションあるある)。
今回も議論が盛り上がってたいへん盛況な研究会になったと思います。皆さん発表お疲れさまでした。